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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)301号 判決

主文

原判決を破棄する。

昭和二六年四月二三日執行された山形県東村山郡寺村の議会議員及び長の選挙に関する訴願についてなした被上告人の裁決を取消す。

右議員及び長の各選挙を無効とする。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士細谷芳郎、同神谷健夫の上告理由第六点について。

原判決においては、本件選挙の投票は、判示第一ないし第八の投票所を設けて行われたが、その開票は一箇所で行われたこと、及び投票日の午前十一時頃本件第七投票所で同村役場吏員で投票事務に従事した佐藤健夫が、投票函を開函し、そのときまでに投入された議員及び長の投票各二百五十五票を附近にあつた林檎の空箱に移して、これを投票所でない同所二階に持ち運び、暫くしてから同投票をもとの投票函に戻して投票終了後、これを開票所に運搬し、他投票所の分全部に混入して開票したことを事実認定として掲げている。投票箱は、適法な開票場所において開票の権限を有する者が適式に開函する以外の方法をもつて、開函することを禁ぜられているから、これに反する前記認定事実が公職選挙法の選挙規定に違反することは、所論のいうとおりであり、また原判決も認めているところである。

しかし、原判決は、「右のような選挙法規違反の行為があつたからといつて、そのこと自体直ちに選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものとすることは行過ぎであつて、右のおそれがあるかどうかは、その前後の具体的事情の如何によつて判定すべきものと解すべきものである」と判示し、当時の具体的事情につき証拠調べをなし、その結果を総合して「投票函を開けてから投票を函に戻すまでの間に投票の結果を左右すべき不正行為が介在したものとは認められないから、右の違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞あるものとはいえない」と判示し、もつて上告人の本訴請求を棄却したのである。だが、前記違法事実は著しく選挙の公正を疑わしめるに足るものであつて、不正行為が行われ得る可能性を有することは明らかである。従つて、かかる違法事実は、現実に不正行為が行われたと否とにかかわらず、常に選挙の結果に異動を及ぼす可能性があるから、公職選挙法二〇五条にいわゆる「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に該当するものといわなければならぬ。もし原判決のごとき見解をとると、前記のような違法事実が行われたときでも、これに関与した当事者について証拠調をし不正事実の発覚しない限り、選挙の効力は保持されることとなる。違法事実に関与した者を取調べても、それらの者が口裏を合せておれば、現実に不正行為が行われた場合でも、不正行為は表面に現われず、従つて選挙は有効と認められる不都合な結果を生ずるであろう。かくては選挙の公正は著しく疑惑を増すことになる。されば、原判決にはこの点において違法があり、論旨は理由がある。それ故、その余の論旨を判断するまでもなく原判決を破棄し、上告人の請求を認めるを相当とする。

よつて、民訴三九六条、三八六条、四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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